眠りの部屋 名画でめぐる五つの展示室

眠りとその兄弟、死

&FINEARTS に登録した作品から、「眠り」を切り口に11点を選びました。美術館の企画展のつもりで、第1室から順にお進みください。

眠っている人は、見られていることを知りません。だから画家は、ふだん描けない無防備な姿や、目に見えない夢の中まで描こうとしてきました。眠りは休息であり、神のお告げが届く時間であり、ときに死のたとえでもあります。部屋を進むにつれて、眠りの意味が少しずつ深くなっていきます。

第1室 うたた寝

最初の部屋は、私たちにも身近な眠りです。

眠る女
眠る女フェルメール、1656–57年頃The Metropolitan Museum of Art, Bequest of Benjamin Altman, 1913

フェルメールの《眠る女》では、若い女性がテーブルのそばで頬杖をついています。調査によると、もとは扉の向こうに男性、扉口に犬が描かれていましたが、画家はそれらを塗り消しました。何があったのかを説明せず、見る人の想像にゆだねています。

眠り
眠りブグロー、1864年Wikimedia Commons (Public domain)

ブグローの《眠り》で眠っているのは、母に抱かれた幼い子どもです。母は口に指を当て、そばの少年に静かにするよう伝えています。眠る人を見守る人まで描くと、眠りは家族の情景になります。

第2室 眠りに届くお告げ

昔の物語では、大切な知らせが夢で届きます。

聖ヨセフの夢
聖ヨセフの夢ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、1640年頃Nantes Museum of Arts / Wikimedia Commons (Public domain)

ラ・トゥールの《聖ヨセフの夢》では、ろうそくの光の中で老人が眠り、子どものような姿の人物が手を伸ばしています。聖書でヨセフに夢で語りかける天使と見るのが題名の解釈ですが、別の読み方もあるとされています。炎をほとんど見せず、顔だけを照らす光の演出に注目してください。

騎士の夢
騎士の夢ラファエロ、1504年頃National Gallery / Wikimedia Commons (Public domain)

ラファエロの《騎士の夢》では、木の下で眠る騎士の左右に2人の女性が立っています。ロンドン・ナショナル・ギャラリーによると、騎士はローマの英雄スキピオで、女性は「美徳」と「快楽」です。左の女性は学問と武勇を表す本と剣を、右の女性は愛を表す花を差し出しています。ただし同館は、どちらかを選ぶ話というより、理想の騎士に必要なものをすべて示した絵と見ています。

ベアトリーチェの死とダンテの夢
ベアトリーチェの死とダンテの夢ロセッティ、1871年Walker Art Gallery / Wikimedia Commons (Public domain)

ロセッティの《ベアトリーチェの死とダンテの夢》は、ダンテの『新生』に着想を得た作品です。黒い衣のダンテは、夢の中で死にゆくベアトリーチェのもとへ導かれます。赤い衣の天使がダンテの手を取り、彼女に口づけしようと身をかがめています。緑の衣の2人の女性が、その上に布を掲げています。眠っているのはダンテですが、絵に描かれているのは夢の中の光景です。

第3室 目を開けたまま見る夢

ここからは少し趣が変わります。この部屋の人物は、誰も眠っていません。

夢
夢コルコス、1896年Galleria Nazionale d'Arte Moderna / Wikimedia Commons (Public domain)

コルコスの《夢》の女性は、ベンチに座り、頬に手を当ててこちらを見ています。そばには帽子と本が置かれたままです。題名がなければ、ただの肖像画に見えるかもしれません。何を夢見ているのかは、まっすぐな視線の奥に隠されています。

白昼夢
白昼夢ロセッティ、1880年Victoria and Albert Museum / Wikimedia Commons (Public domain)

ロセッティの《白昼夢》のモデルは、ジェーン・モリスです。シカモアの木の枝に腰かけ、手にはすいかずらの小枝を持っています。当時すいかずらは愛のしるしとされ、画家との秘めた関係をほのめかすという見方もあります。絵に添えられたロセッティの詩には、忘れられた本の上に花が落ちるとうたわれています。

第4室 眠る神、眠る救い主

神々も眠ります。ただし、その眠りは人間とは少し違うものとして描かれました。

眠れるヴィーナス
眠れるヴィーナスジョルジョーネ、1510年頃Staatliche Kunstsammlungen Dresden / Wikimedia Commons (Public domain)

ジョルジョーネの《眠れるヴィーナス》は、野外で眠る女神を描いた作品です。背景の風景と空は、ジョルジョーネの死後にティツィアーノが仕上げたとされています。足もとにはもともとクピドが座っていましたが、19世紀に塗りつぶされました。人物が大地の起伏と溶け合うように横たわっています。

嵐の中で眠るキリスト
嵐の中で眠るキリストドラクロワ、1853年頃The Metropolitan Museum of Art, H. O. Havemeyer Collection, Bequest of Mrs. H. O. Havemeyer, 1929

ドラクロワの《嵐の中で眠るキリスト》は、福音書の場面です。荒れる湖で弟子たちが騒ぐなか、キリストだけが舟の中で眠っています。緑の波と暗い空の中で、光に包まれた眠りだけが静かです。ここでの眠りは、恐れを知らない信頼のしるしです。

第5室 覚めない眠り

最後の部屋では、眠りと死が隣り合います。

眠りとその兄弟、死
眠りとその兄弟、死ウォーターハウス、1874年Wikimedia Commons (Public domain)

ウォーターハウスの《眠りとその兄弟、死》に描かれているのは、ギリシャ神話で兄弟とされる眠りの神と死の神です。光の当たる手前の若者が眠りで、手にケシの花を持ちます。影の中にいる奥の若者が死です。2人の弟を結核で亡くしたあとに描かれた作品と知ると、見え方が変わります。

アヴァロンで眠るアーサー王
アヴァロンで眠るアーサー王バーン=ジョーンズ、1881–98年Museo de Arte de Ponce / Wikimedia Commons (Public domain)

展示の最後は、バーン=ジョーンズの《アヴァロンで眠るアーサー王》です。傷ついた伝説の王が、女性たちに囲まれて横たわっています。王はいつか目覚めて戻ってくると語り継がれてきました。

高さ約2.8メートル、幅約6.5メートルの大作で、画家は1881年から取りかかり、1898年に亡くなるまで描き続けましたが、完成しませんでした。眠る王を描いたまま、画家のほうが先に永遠の眠りについたのです。

まとめ

うたた寝からお告げ、白昼夢、神の眠り、そして死へ。同じ「眠り」でも、画家が込めた意味はこれほど違います。

次に美術館で眠る人の絵に出会ったら、ぜひ考えてみてください。この人は休んでいるのか、夢を見ているのか、それとも二度と目覚めないのか。

アイキャッチ画像:眠りとその兄弟、死(Wikimedia Commons (Public domain))

バーン=ジョーンズフェルメールロセッティ