エロスは、恋心を生み出す愛の神です。背中に翼を持ち、弓と矢を携えています。エロスの矢に射られた者は、神でも人間でも、たちまち恋に落ちてしまいます。ローマ神話ではクピド(アモル)と呼ばれ、英語の「キューピッド」はこのクピドから来ています。
ふたつの生まれ
エロスの生まれには、大きく分けてふたつの言い伝えがあります。
ひとつは、世界のはじまりに生まれた古い神とするものです。詩人ヘシオドスの『神統記』では、最初にカオス(空隙)が生まれ、続いて大地ガイア、地の底タルタロス、そしてエロスが現れたとされます。ここでのエロスは、ものとものを結びつけ、新しい命を生み出させる力そのものでした。
もうひとつは、愛と美の女神アフロディテの子とするものです。父は戦いの神アレスとされることが多く、こちらのほうがよく知られています。母のそばに仕え、母の言いつけで矢を放つ、いたずら好きな少年の姿です。
金の矢と鉛の矢
ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』では、エロスは2種類の矢を持っています。先が金の矢に射られると激しい恋に落ち、先が鉛の矢に射られると恋を嫌うようになります。
あるとき、弓の名手アポロンが「子どもに弓矢は似合わない」とエロスをからかいました。怒ったエロスは、アポロンに金の矢を、川の神の娘ダフネに鉛の矢を放ちます。アポロンはダフネを追い続け、ダフネは逃げ続け、最後には月桂樹に姿を変えてしまいました。神々の王ゼウスでさえ、エロスの矢からは逃れられないとされています。
美しい若者から、翼のある幼子へ
古代ギリシャの初めのころ、エロスは翼を持つ美しい若者として描かれていました。時代が下るにつれて少しずつ幼くなり、ローマ時代には、ふっくらした翼のある幼子の姿が定着します。ルネサンス以降の絵画で、天使のような幼子がたくさん飛び回っているのは、この姿を受け継いだものです。
一方で、恋の神としての物語の主役になるときは、若者の姿に戻ります。人間の娘プシュケとの恋の物語では、エロスはプシュケが思わず見とれるほど美しい青年として登場します。
プシュケとの恋
エロスの物語でもっとも有名なのが、人間の娘プシュケとの恋です。母アフロディテの命令でプシュケに恋の矢を向けたはずが、自分がプシュケに恋をしてしまい、夜にだけ会う夫になります。「顔を見てはいけない」という約束が破られたことで、ふたりは引き離されますが、多くの試練の末に結ばれ、プシュケは神々の一員になりました。くわしくは「エロスとプシュケ」で紹介しています。
絵の中のエロスの見分け方
- 翼:鳥の翼を持つ幼子か少年。翼のない幼子(プット)とは翼で見分けます
- 弓と矢、矢筒:いちばんの手がかりです。弓を引いていたり、矢を手にしていたりします
- 目隠し:「恋は盲目」を表して、目隠しをした姿で描かれることもあります
- ヴィーナスのそば:母アフロディテ(ヴィーナス)の横にいる幼子は、たいていエロスです
カラヴァッジョの『愛の勝利』では、楽器や書物、甲冑などを足もとに散らばらせて、エロスが笑っています。学問も芸術も戦いも、愛にはかなわないという意味です。
















