アポロンは、音楽と詩、予言、弓矢の神です。若々しく美しい青年の姿をしており、ギリシャの人々にとって理想の若者そのものでした。竪琴を奏でて神々を楽しませる一方、遠くから放つ矢は疫病をもたらすとも恐れられました。ローマでもそのままアポロと呼ばれ、のちの時代には太陽の神としても敬われるようになります。
浮き島で生まれた双子
アポロンの母レトは、ゼウスの子を身ごもりました。ゼウスの妻ヘラはこれに怒り、「太陽の光が当たる大地のどこでも、レトに子を産ませてはならない」と命じます。どの土地もヘラを恐れて、レトを受け入れませんでした。
最後にレトを迎えたのは、海を漂っていた小さな浮き島デロスでした。大地につながっていない島なら、ヘラの命令には当たらなかったのです。レトはここで、まず月と狩りの女神アルテミスを、続いてアポロンを産みました。それからデロス島は海の底に柱で固定され、アポロンの聖地になったといいます。
デルポイの神託
生まれて間もないアポロンは、母を苦しめた大蛇ピュトンを退治するため、パルナッソス山のふもとのデルポイ(デルフォイ)へ向かい、矢でピュトンを射止めました。そしてこの地に神殿を開きます。
デルポイの神殿では、ピュティアと呼ばれる巫女がアポロンのことばを伝え、人々の問いに答えました。これが「デルポイの神託」です。王も英雄も、大きなことを決めるときにはデルポイに使いを送りました。神殿には「汝自身を知れ」ということばが刻まれていたと伝えられています。
月桂樹になったダフネ
アポロンは恋に恵まれない神としても知られます。もっとも有名なのが、ダフネの話です。
あるときアポロンは、恋の神エロスに「子どもに弓矢は似合わない」とからかいました。怒ったエロスは、アポロンに恋を燃え立たせる金の矢を、川の神の娘ダフネに恋を嫌わせる鉛の矢を放ちます。アポロンはダフネを追いかけ、ダフネは必死に逃げました。追いつかれそうになったダフネが父に助けを求めると、その体はみるみる月桂樹に変わってしまいます。
アポロンは木を抱きしめ、「妻にはなれなかったが、せめて私の木になってほしい」と言って、月桂樹の葉で冠を作りました。月桂冠が勝利と栄誉のしるしになったのは、この話から来ています。
ほかにも、円盤投げの遊びの最中に事故で死なせてしまった美少年ヒュアキントス(その血からヒヤシンスの花が咲いたとされます)や、心変わりを知って矢で射てしまったコロニスなど、アポロンの恋はしばしば悲しい結末を迎えます。コロニスのおなかから救い出された子が、医術の神アスクレピオスです。
竪琴と、音楽の争い
アポロンの竪琴は、もとは弟のヘルメスが亀の甲羅で作ったものでした。生まれたばかりのヘルメスがアポロンの牛を盗んだとき、その償いとして贈られたものです。
音楽の神アポロンに腕比べを挑む者もいました。笛の名手だったサテュロス(半人半獣の精霊)のマルシュアスは、アポロンとの演奏の競争に負け、生きたまま皮をはがれるという恐ろしい罰を受けました。神に逆らうことの怖さを伝える話です。
絵の中のアポロンの見分け方
- 月桂樹の冠:頭に葉の冠をかぶった、ひげのない若者
- 竪琴:手に竪琴を持ち、詩と音楽の女神ムーサたちに囲まれていることもあります
- 弓と矢、矢筒:双子のアルテミスと並んで描かれることもあります
- 光の輪と馬車:太陽の神として、頭のまわりに光を放ち、4頭の馬が引く車で空を駆ける姿で描かれることもあります
ポッライオーロの『アポロンとダフネ』では、アポロンが抱きついたとたん、ダフネの両腕が月桂樹の枝に変わっていきます。ベラスケスの『ウルカヌスの鍛冶場』に描かれた、頭から光を放つ若者もアポロンです。アフロディテとアレスの密会を、夫ヘパイストス(ウルカヌス)に告げに来た場面です(もとの話では太陽の神ヘリオスの役目ですが、太陽の神と重ねられたアポロンとして描かれています)。鍛冶場の男たちの驚いた顔が見どころです。


