イエスが捕らえられた夜、弟子のペテロが「あなたもあの人の仲間でしょう」と問い詰められ、「知らない」と答えてしまう場面です。左の兜をかぶった兵士の前で、女性が二本の指でペテロを指し、右のペテロは両手を胸に向けて、自分は関係ないと身を引いています。
ペテロは、白いひげの年老いた姿で描かれるのが決まりで、天国の鍵を持つ姿がよく知られています。また、この「否認」の場面では、イエスの予言どおりに鳴いた鶏がアトリビュート(その場面を見分けるしるし)として添えられることがあります。この作品には鍵も鶏も描かれず、3人の表情と手の動きだけで、物語のいちばんつらい瞬間を伝えています。
1610年、カラヴァッジョが亡くなる直前の数か月のうちに、ナポリで描かれたと考えられている晩年の作品です。
暗闇の中、左から差す光が、問い詰める女性の顔と、うろたえるペテロの顔を照らします。人物を腰から上だけに絞った構図と、素早く大胆な筆づかいは、晩年のカラヴァッジョの特徴です。

