クロノスは、神々の王ゼウスの父です。オリュンポスの神々が世界を治める前、ティタンと呼ばれる古い世代の神々の王として世界に君臨していました。父を倒して王になり、自分も子に倒されることを恐れて、生まれたわが子を次々に呑み込んだ恐ろしい神として知られています。ローマ神話ではサトゥルヌスと呼ばれ、英語ではサターン(土星)です。
父ウラノスを倒す
クロノスは、天の神ウラノスと大地の女神ガイアの間に生まれた、ティタンの末の子でした。父ウラノスは、子どもたちのうち、姿の恐ろしい巨人たちを嫌って、大地の奥深くに押し込めていました。
苦しんだ母ガイアは、硬い鉄で大きな鎌を作り、子どもたちに父への仕返しを頼みます。名乗り出たのはクロノスだけでした。夜、ウラノスが大地に覆いかぶさってきたとき、隠れていたクロノスは鎌でウラノスを傷つけ、天の王座を奪いました。このとき流れた血からは復讐の女神たちが、海に落ちた体の一部からは愛の女神アフロディテが生まれたとされます。
わが子を呑み込む
王になったクロノスは、姉のレアを妻にしました。けれども、両親から告げられた「おまえもいつか自分の子に王座を奪われる」という予言が、頭から離れません。クロノスは子が生まれるたびに、その子を丸ごと呑み込みました。ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドンの5人です。
6人目のゼウスが生まれたとき、レアは産着で包んだ石を赤ん坊だと偽って渡し、クロノスはそれを呑み込みます。クレタ島で密かに育ったゼウスは、やがて父に薬を飲ませて兄や姉たちを吐き出させ、10年に及ぶ戦いの末にクロノスたちティタンを打ち破りました(「ゼウスと父クロノスの戦い(ティタノマキア)」)。
黄金時代の王
恐ろしい話の多いクロノスですが、別の顔もあります。詩人ヘシオドスは『仕事と日』の中で、クロノスが王だった時代を「黄金の時代」と呼びました。人間は働かなくても大地が実りを与えてくれ、争いも病もなく、年をとらずに暮らしていたといいます。
敗れたクロノスのその後についても、言い伝えは分かれます。大地の底の奈落タルタロスに閉じ込められたとする話のほか、世界の果てにある「幸福の島」で、英雄たちの魂を治めているとする話もあります。
ローマのサトゥルヌス
ローマの人々は、クロノスを自分たちの農耕の神サトゥルヌスと同じ神と考えました。ゼウスに追われたサトゥルヌスはイタリアに逃れ、人々に畑の耕し方を教えて、平和な黄金時代をもたらしたとされます。12月にはサトゥルナリア祭という祭りが開かれ、この日だけは主人と奴隷の立場が入れ替わるほど、にぎやかに祝われました。土曜日を表す英語の Saturday も、サトゥルヌスの日という意味です。
時の翁
クロノス(Kronos)の名前は、ギリシャ語で「時」を表すクロノス(Chronos)と響きがよく似ています。そのため古くから時の神と混同され、ルネサンス以降の絵画では、大きな鎌と砂時計を持った、翼のある老人「時の翁」として描かれるようになりました。すべてを生み出し、やがてすべてを呑み込んでしまう時の姿が、わが子を食らう神の話と重ねられたのです。
絵の中のクロノスの見分け方
- 子を抱える、または食らう老人:わが子を呑み込む場面です
- 大きな鎌:父ウラノスを倒した鎌であり、収穫の神のしるしでもあります
- 砂時計と翼:時の翁として描かれるときのしるしです
ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』は、ゴヤが晩年に自分の家の壁に描いた「黒い絵」のひとつです。神話の場面というより、恐れに取りつかれた者の狂気そのものを描いたような、見る人の心に強く残る絵です。
