アルテミスは、狩りと月の女神です。野山を自由に駆け、弓で獲物を射る、オリュンポス十二神の一人。純潔の誓いを立て、どんな神も人間も、彼女に仕えるニンフたちも、その誓いを守ることを求めました。ローマ神話ではディアナと呼ばれ、西洋絵画では「ディアナ」として親しまれています。
双子の姉の誕生
アルテミスはゼウスと女神レトの娘で、アポロンの双子の姉です。ゼウスの妻ヘラは、ゼウスとレトの関係を怒り、どの土地もレトに出産の場所を貸さないよう命じました。苦しみながら各地をさまよったレトは、やがてデロス島にたどり着きます。漂う小島だったデロスだけが、ヘラの命令を気にせず受け入れてくれました。
アルテミスは姉として先に生まれ、すぐに産婆の役を務めて、後から生まれたアポロンを助けたといいます。産まれたばかりで弟の誕生を手伝ったことから、アルテミスはお産の守護者ともされました。
純潔の誓い
幼いころのアルテミスは、父ゼウスに「いくつかのお願い」を聞いてもらいました。永遠の純潔、弓と矢、狩りのための山々、そして60人のニンフからなる侍女の一団。ゼウスはすべての願いを叶えます。
アルテミスのまわりには常に美しいニンフたちが付き従い、みな彼女と同じく純潔の誓いを立てていました。誓いを破ることは、女神にとってゆるせない背信でした。
アクタイオン — 女神の怒り
ある日、テバイの王家の若い猟師アクタイオンは、仲間と狩りをしていました。疲れて森の奥に入った彼は、アルテミスがニンフたちと水浴をしている泉に迷い込んでしまいます。
女神の裸を目にしたアクタイオンは、その場で立ちすくみました。アルテミスは怒り、彼に水をかけます。すると、アクタイオンの頭には角が生え、体は牡鹿へと変わっていきました。声も出せなくなった彼は、やがて自分が連れてきた猟犬たちに追われ、喰い殺されてしまいます。

この物語は、オウィディウスの『変身物語』に詳しく語られています。女神の聖域に踏み込むことの禁忌と、その結果を描いた話として、古代から多くの画家たちを引きつけてきました。
カリスト — 追放されたニンフ
アルテミスの侍女カリストは、女神がいちばん信頼していたニンフのひとりでした。ところがある日、ゼウスがアルテミスに変装してカリストに近づき、彼女は身ごもってしまいます。
しばらくして水浴の際に妊娠が露見すると、アルテミスはカリストを仲間から追い出しました。その後、アルテミス自身が(あるいはヘラが)カリストを熊に変えたとされます。

ゼウスはのちに熊になったカリストを哀れんで、彼女と息子アルカスを天に上げ、大熊座と小熊座にしたといいます。
絵の中のディアナの見分け方
絵画ではローマ神話の名前「ディアナ」として描かれることがほとんどです。
- 弓と矢:狩りの女神であることを示す。背に矢筒を背負う姿でよく描かれる
- 三日月:月の女神としての象徴。頭に三日月の飾りを付けた姿が定番
- 牡鹿と犬:女神のそばにいる聖なる動物。狩りの場面では犬を連れて登場する
- 水浴:ニンフたちと水辺で沐浴する場面も定番。アクタイオンに見られた話から
ティツィアーノがスペイン王フェリペ2世のために描いた「ポエジー(詩的絵画)」連作のうち、「ディアナとアクタイオン」と「ディアナとカリスト」は対になる傑作です。「ディアナとアクタイオン」の続きにあたる「アクタイオンの死」もよく知られています。ルーベンスも同じ主題を好み、躍動感のある構図で何点か残しました。







